最近ギャラリーで展覧会をいくつか見ました。
そのなかで印象に残ったものを3つ。

 

最初は銀座。
養清堂画廊で 遠藤享さん のオフセットリトグラフの新作展。
閑かな世界のなかに不思議なレンズの目をもらった虫としてしーんと入っていく感覚になります。

奥様の通子さんが「今年は遠藤も喜寿になるのよ」と。
びっくり!
遠藤さんご自身にここ十年余り一向に変わられた気配がありません。
そして作品を見せていただくと清々しい青年のような空気感。
こうした人生の先輩がいることはそろそろ歳をとることのおっかなさを感じ始めた私たちには励みになります。
福山雅治ファンの通子さんとひとしきり土佐弁ごっこをして辞去し、爽やかな風に吹かれたような心地よさで銀座を歩きました。

 

次は同業の先輩、冨川元文さんからのお誘いで。
やはり銀座の「枝香庵」という画廊で毎日新聞夕刊に連載されていた「しあわせ食堂」という各界著名人の愛する昭和の味にまつわるエピソードの挿絵の原画展(武内ヒロクニさん)。
鰻、オムライス、おせんべい、すいとん、コロッケなどを色鉛筆で独特の質感を出すそれぞれ違った筆致で描かれています。
(さらださんもすでにカクシゴトヤのブログで書いていますよね)

 

オープニングだったから、展覧会にちなんだお料理が供されました。
なかでも初食!のすいとんが印象に残りました。
とても食料不足を補うためのうなだれご飯に思えず、なかなか美味しかった。
大分の郷土料理、だんご汁にも似ていました。

 

こちらのギャラリーはビルの最上階のペントハウス。
パリの屋根裏部屋のような雰囲気で今後若い画家さんや作家さんのサロンとしても使ってくださいとオーナーのあらいさんの有り難いお申し出。
何か企もう(笑)と冨川さんやさらださんと話しています。

 

それから広尾の「ギャラリー旬」で笠間在住の陶芸家、筒井修さんの展覧会。
茨城県の国民文化祭プレイベントを企画した時からのおつきあいです。
笠間での暮らしぶりはほんとうに豊かな究極のスローライフで何度伺ってもうらやましくなります。

 

今回のギャラリーは都心とは思えない、いい雰囲気を醸し出している場所でした。
土間の床に韓国の建具や箪笥、筒井さんの作品ととてもいいハーモニーでした。
去年笠間の工房に伺ったときに求めたお鉢と同じ、銀化シリーズの長角皿をいただこうと決めてしばらくお話をします。
考えてみたら筒井さんとお会いするのは二年前から数えてまだ五回くらい。
なのに、ずっと以前からお付き合いがあるようになんの違和感もなくお話できるのが不思議です。
きっと筒井さんの温かいお人柄のせいですね。

 

こうしてまわって見ると東京中、数えきれない夥しい数のギャラリーがあります。
そこでは毎日大勢の人たちがさまざまな形で自己表現しているのだなと改めて感じ入ります。

 

自分のなかで沸々と湧いてくる何かを誰かに伝えたくて、人は創作という行為に向かうのです。
伝えたいものがちゃんと届くためにあらゆる可能性を試し、技術を磨くために日々努力を惜しまず何時間でも作品と向かい合う。
偶然の邂逅で何かひらめいたときはそれまでの気の遠くなるような作業を捨ててでも潔く新たなものへと方向転換する。
そうした営みは何も創作活動に限ったことではないのだとふと気がつきます。
人間はただいのちを持続させていくだけでは生きられないのだとも。

 

そう思って周りを見回し、カフェに隣り合わせたこの人は何をしている人なんだろうと想像してみます。
どんなときに笑い、泣き、怒るのか—そう考え始めると何だか楽しくなってきました。

 

人間ってまだまだ奥深いのだと思って。