NHKのクローズアップ現代という番組で、廃墟を観光資源にするという取り組みを取り上げていました。
長崎の軍艦島観光はいま秘かなブームになっているようですし、瀬戸内海の犬島はいまやアートを好きな人たちの聖地ともいわれる直島に続けと、銅の製錬所跡地を近代化産業遺産として価値を認め中心にすえた観光のプログラミングに着手して徐々に人気が高まっているようです。

壊してしまえばただの産業廃棄物になってしまうものを活かして町の観光資源にする。
そこで幼少時代を過ごしたお年寄りにガイドをしてもらって、生き証人として地元のみならず、よそから来た若者に昔の文化を口承してもらう。それは豊かな光景でした。

 

ところで、ソフトバンクのCMが面白くて新作を見るのが楽しみだという人が私の周りに結構います。
白い犬のおとうさんと黒人の長男を何の違和感もなく受け入れている樋口可南子さんと上戸彩さんの母娘が出てくる例のあれです。CFや駅のポスターになっている雪景色の中を夫婦が歩いて地元の女子高校生に出あって自分たちの娘のことに思いを巡らせているシーン。

 

あの撮影場所がどこかみなさんはご存知ですか?
戦国時代、越前(福井県)の朝倉氏が応仁の乱で荒廃した京を後にした公家や僧侶や文人を受け入れて京文化を開花させ、落ちぶれていたとはいえ足利幕府の将軍を二代に渡り招いて能や歌会を催して栄華を極めた場所、そしてその後織田信長によってすべて焼き払われてそのまま田畑に埋もれた一乗谷(まるでポンペイのようです)。
江戸時代に建てられたといわれる唐門や庭園の石の一部が残っていただけの遺跡だったのを枯山水の庭園群を発掘した国の事業を引き継いで福井県が1972年から発掘調査を行い、その成果を展示する資料館を82年に建て、発掘調査の結果得られた情報を基にして95年に城下町の復元を行いました。そこで撮影されたのがあのCMです。

 

発掘調査というのは時間と手間のかかるものです。
一乗谷朝倉遺跡も県が発掘を始めてから街並を復元するまで20年余りの時を要していますし、また同県の勝山市にある県立恐竜博物館も82年のワニの全身化石発掘から開館まで20年近く。
でも両方ともいまでは福井県の貴重な観光資源になっていますし、発掘調査は継続中です。地元の方たちもいろいろな形でこうした事業に携わることによって自分たちの町に誇りを持つきっかけにもなっています。

 

私はこうした事業を思い立ち、予算案を議会で通した行政の方たちの先見性と努力もさることながら、長年それを支えてきた県民(選挙民、或いは納税者?)も褒められるべきだと思います。
しかし、いま行政に求められていることが非常に変化してきているのを感じます。
不況のせいもあるのでしょうが、余計なお金は使わずに市民サービスさえしてくれればよいという極端な考え方に陥っている気がしてなりません。
私たちは文化遺産や化石の発掘調査のように結果が出るまで時間のかかるものに対してもっと長い目で見る知見や覚悟を持つべきだと思うのです。

福井県とは異なり、最初にお話した瀬戸内の島々の計画は行政主導ではなく民間の企業(ベネッセ)の財団が始めた形です。
企業の利益をベネッセのように広く社会還元しようという動きは欧米に比べて日本においてまだまだこれからです。
それを後押しするための税制改革等の整備も進めなくてはならないのでしょう。

 

長いときを経て作られた歴史やその遺産を有効に活かすこと、それも以前お話したのっぺらぼうじゃない町作りの重要なポテンシャルになると思います。