西原理恵子さん原作の『パーマネント野ばら』
の試写に行ってきました。

 

最終なので30分前に行ったらもうすでに席が半分くらい埋まっていました。
脚本が「学校の怪談」や「しゃべれどもしゃべれども」の奥寺佐渡子さんですし、監督も評判のいい吉田大八さんだからみなさん期待しているのかしら…と私もわくわくしながら上映を待ちました。

 

いよいよ映画の始まり…
「なおちゃん、なおこ…」と主人公の名前が呼ばれます。
画面では子ども用の小さめの自転車が春風(そう見えた)の中を走っていて、そのタイヤのスポークが光を浴びてキラキラ輝いている。それは主人公なおこの夢、或いは回想のようでした。

 

私は映画を見るときなるべく事前の情報なしで見るようにしています。
原作を読んでいませんでしたから、『パーマネント 野ばら』という題名と葉書に摺られたポスターの写真のイメージから勝手に「心に咲く永遠の野ばら=やさしい気持ち」かなぁくらいに思っていたら、主人公の母が高知の小さな漁師町で営むパーマやさんの店名だったのでした。

お客からは「野ばらさん」と呼ばれている、主人公の母まさ子(夏木マリ)を筆頭にこの店に来るお客たちもみな女だてらに、近頃珍しいガチガチバリバリのパンチパーマです。
そして彼女たちの会話の卑猥なことと言ったら!「男のおばさん」の逆も真なりで「女のオヤジ」たちのその濃さに「胸焼けをおこすわ」とまさ子も呆れるほど。
なおこ(菅野美穂)はバツイチ。ひとり娘のももちゃんを連れた出戻りで実家の稼業を手伝っています。

 

なおこの周囲はみな訳ありでしかも派手な事件を次々起こしていきます。
なおこはそうしたすべてをじっとしずかに見つめています。
ヒモ亭主とドロドロの愛憎劇を繰り広げるみっちゃん(小池栄子)、不幸と貧乏神を同時に背負ったようなともちゃん(池脇千鶴)の波瀾万丈、母の元を去った義父(宇崎竜童)の新しい女性との生活ぶり、お店のお客さんたちの不器用でちょっと笑ってしまうような恋模様などをすべて淡々と見つめて、黙って受け止めていきます。

 

なおこには高校教師のカシマ(江口洋介)という恋人がいますが、ふたりはお互い少し遠慮がちでどこか浮遊感のある、でもやさしい関係です。
なおこを取り巻くさまざまなこうした事件や出来事のあとにほんの少し「ん?」と気になるインサートがあったり、事件の真只中にある人の表情にかすかな揺らぎが見られたり、それが心の中に少しずつ少しずつ沈殿していきます。
そうして終盤、じっと見つめていた視線が思いがけず反転します。その途端、いままで沈殿していたものが一気につながったことによってわずかに形を成しかけていた疑問が氷解するのです。
題名に最初抱いていたイメージもあながち間違ってはいなかったことで心がほっと温もるのを感じます。

 

「視線の反転」という意味において『パーマネント野ばら』はまさに映画です。
脚本も演出もそれを成就させるために最善を尽くしています。
なおこに対して少し客観的な立場にあるカズオを演じる宇崎竜童のリアリティーがこの作品をずっと貫く重要な役割を演じていて彼がそれを見事に果たしていたのにも感じ入ります。

 

今度是非西原さんの原作を読もうと思います。
奥寺さんの脚本の巧みさを知るためにも。
みなさんも「見てから読むか、読んでから見るか…」(懐かしいコピーだ!)しっかり選んでください。
多分原作を読まないでみたほうがより良いような気がしますが。