「光陰矢の如し」といいますが、もう8月です。
少し前の深夜、サッカー・ワールドカップ・南アフリカ大会の総集編の再放送を見ました。
今更ながら、日本代表の活躍に胸を躍らせたひと月前のことが蘇ってきてわくわくしました。
個人主義の尊重が裏目に出てぼろぼろだったフランスと逆で、集団としてまとまる中で、同時に個をそれぞれうまく活かすことに成功した日本は「サムライ」という神秘的な呼び名で旋風を巻き起こしたようです。
今回の大会を通してわかったのはサッカーのコアなファンではない私のようなものが知らないところで多くの日本人選手が海外で頑張っていたということでした。

 

「海外移籍組」と大々的に報道された最初の頃のフロンティアたちとは違って、彼らは国内メディアに派手に注目されることなく(だから一般的な国民に知られることなく)、黙々とその技術や精神力を磨いていたのでしょう。
思えばスポーツに限らず、ご本家の懐に飛び込んで自分の力を試そうというひとは各分野で大勢いるのでしょうね。

昨年、友人の作曲家でピアニストの中村由利子さんに紹介されて汐留のパークホテルでの演奏会で出会って以来、その音色の虜になってしまったオーボエ奏者の渡辺克也さんもそのおひとりに違いありません。
芸大の学生だった頃から新日フィルで活躍し、25歳で渡欧。
首席奏者としてヴッパタール交響楽団、カールスルーエ州立歌劇場管弦楽団を経てベルリンドイツオペラ管弦楽団へ。
ベルリンには11年間在籍し、現在はソロイツ・ヨーロピアンズ・ルクセンブルグで首席奏者としてヨーロッパ各国の優秀なソリストたちとの共演をし、さらに研鑽を積んでいます。

 

昨年のコンサートはメロディアスで和声を重んじた中村由利子さんが作曲したものから始まりました。
由利子さんの繊細で金属音を消したピアノに呼応して彼の奏でるオーボエの音色がその場を水平に拡げていったのを目(耳)の当たりにしてすっかり魅了されました。
そして今年の東京文化会館でのコンサート。
選曲は今年リリースされたばかりの新しいCD『Summer Song』と同じもの。

 

オーボエってこんなにたくさんの表現が出来たの?と目を見張るほど様々な音色も聴けて、ほんとうにしあわせな時間でした。
またソプラノ歌手のコロラトゥーラ顔負けのその超絶技巧にますます磨きがかかっていたのにも驚きました。
しかもF1カーで一般の高速道を走るがごとく(きっと死ぬほど練習したであろうことは想像にかたくないのに)余裕さえ感じるその演奏に聞き惚れ、完璧にやられてしまいました。

そうしたら最後に「何十時間も練習したのにほんの一分少々の演奏じゃあんまりだからもう一度演奏します」とアンコール。
彼の気取らないフランクなお人柄にも会場を埋めた聴衆もすっかり魅せられていました。
渡辺さんとメールのやり取りをしていても彼には自分が特別なことをしているという肩肘張った感じが微塵も感じられません。
自分が好きなことのための努力を当たり前のこととして、長時間の練習はもちろん体調管理の基礎のための食材調達という地道なことまで、とても楽しそうに取り組んでいるのです。

 

ネット上ではもう国境なんてなくなった時代に渡辺さんのような日本人が増えていくことを頼もしく感じるとともに、もっと応援しなくては思います。
あらゆる意味で閉塞感が漂っているいまの日本にとって海外で活躍するひとの姿は若い人が「夢見る力」を持つための一番の後押しになります。

 

最近、アメリカのアイビーリーグの大学を目指す若者の数が中国や韓国に比べて少ないことがとても気になっています。
様々な分野で自分の可能性を見いだすために、外へ飛び出していく力を持って欲しい。

 

小さくまとまるな!
少年・少女よ、大志を抱け!
声を大にして言いたい。