羽田野さんのツイッター話を受けて・・・・・・、私もツイッターにまつわるお話しを。

 私もツイッターはふたつの目的で使っている。
一つは思いついたことや、記憶に甦った事柄を忘れないうちにメモしておく『備忘録』として。
以前はPCについてるメモ帳に書き込んでデスクトップに置いていたけど、ツイッターにつぶやくことで、誰かがそこにさらなる情報を書き込んでくれて、情報に厚みがつく。
知らず知らずにいろんな情報が収集でき、これもツイッターの優れた機能。

ツイッターから派生したツイログに連動させておくと、自分のつぶやきがアーカイブされ、過去ログが全て読めるのも便利だ。

さて、最近、フランスの名言「人間は判断力の欠如によって結婚し、忍耐力の欠如によって離婚し、記憶力の欠如によって再婚する」についてつぶやいたら、結構RTによる反響があった。


ちょうど、CXの『はねるのトびら』を見ていたらこの名言がクイズになって、“俳優の石田純一さんの名言” として紹介されていたのがつぶやくきっかけだった。
おいおい! ちがうってば! と。
この名言を知ったのは10数年前だろうか?
ある新聞のコラムの切り抜きだった。

多分、CBCラジオの長寿番組『朝の歳時記』を書いてた頃、2週に一度ネタ会議があって、目の前にどさっと置かれた新聞記事のコピー資料をめくっているうちに、発見したと記憶している。
番組のネタにはしなかったけど、めっぽう男性に惚れっぽい私としては、これは拡大コピーして、自分への戒めとして、デスクの前にでも貼っておこうと思ったのだ。
今も、色褪せた拡大コピーの紙片が、目の前にぶら下がってる。
コラム記事には“フランスの警句”として引用されていた。
その後、日テレの『恋のから騒ぎ』のオープニングにも使われていた。
憎い演出になっていたので、ほうっと、唸ったものだ。

だが、フランスの・・・・・・であっても誰の名言かは、くだんの切り取ったコラムには書かれていなかった。
そこでネットで検索したら、フランスの劇作家アルマン・サラクルー(Armand Salacrou)という名前が判明した。
あれこれ調べると、原文は
〈On se marie par manque de jugement; puis, on divorce par manque de patience; enfin, on se remarie par manque de mémoire〉
Armand Salacrouの言葉としてフランス語サイトでもヒットしたので、早速ツイッターにこう書き込んだ。
〈石田純一の名言として紹介された「人間は判断力の欠如によって結婚し、忍耐力の欠如によって離婚し、記憶力の欠如によって再婚する」は、正しくはフランスの劇作家アルマン・サラクルーの名言です。昔、さんまの恋カラの冒頭に使われたりしてました。お間違いなきよう!〉
ついでに、ツイッター上で検索すると、私と同じように「フランスの劇作家アルマン・サラクルーが言ったのでは?」と指摘する書き込みが既にたくさんあった。
へえ、やはり知ってる人は知っているんだ・・・・・・と感心した次第であった。

が、すぐに、次なる疑問がわいた。
アルマン・サラクルーが劇作家であれば、その名言はサラクルーの作品の台詞で書かれているんじゃないかな? 
だとすれば何の作品だろう? 
日本語に訳されてるかな? などなど。

 しかし、私のいい加減なフランス語力では、フランス語サイトを読みこなして引用元の作品を突き止めることはできそうもない。
しかも検索結果を少しずつ眺めていくうちに、この名句はやはりフランスの劇作家であるアンドレ・ルサン(André Roussin)の言葉という記事もいくつか出てきた。
日本語のサイトでもルサンの言葉としてもヒットする。
やばいぞ、どっちが正しいのかわからない。
ツイッターに〈正しくはフランスの劇作家アルマン・サラクルーの名言です〉なんて偉そうに書いてしまったが、正しくないかもしれないじゃん!

 単純にヒット数でいうと、日本語サイトではサラクルーが多く、フランス語サイトではルサンが多い。
だが、ネットはコピペの世界だから、間違った情報が増殖している可能性もある。(ほとんどコピペ!)
ちなみに、サラクルーはルサンより一回りほど年上で、活躍時期も15年ほどサラクルーが先輩となる。
もともとサラクルーが何かに書いた台詞を、ルサンが引用して有名になった可能性もある。
そのあたりが、定かでないから、私が最初に目にした新聞記事に、明確に誰の言葉とは書かれてなかったのかも知れない。

また、英語でいうと
〈Marriage is the lack of judgement, divorce the lack of patience, and remarriage the lack of memory〉
これは南アフリカ生まれの心理学アーノルド・A・ラザラス(Arnold A. Lazarus)博士の著書『Marital myths revisite』に記されていることが判った。
それゆえ、ラザラスの名言のようにも解釈されがち。
だが、幸いこの引用節はネットに公開されていて、「よく世間で言われるように・・・みたく」と、引用句として登場する。
結局、ラザラスの著書でも誰の言葉かわからない。
ある日本語サイトに、イギリスの女流作家ジョージ・エリオットの言葉と紹介されていた。
エリオットは、19世紀の人でサラクルーやルサンより1世紀前の人物だ。
であれば、エリオットの名言をサラクルーかルサンが引用したことにもなる。
イギリスのユーモアか、フランスのエスプリか?
謎は深まるばかり!
もしかしたら、そういう類のことは、太古の昔から、言われてきたことかも知れないし・・・

 で、怖いのはツイッターでRTが重なるうちに@saratamaさん(私のツイッターID)が、この名句を発しているようにもなっていったことだ。
正しい引用元は不明でも、さらだたまこが言ったわけではなく、石田純一さんのオリジナルでもないことは確かだ。

と・・・・・・こう書いているのを読んで、「馬鹿だなあ、ちゃんとサラクルーやルサンの作品を読めばいいのに」と正解をご存じの方もいらっしゃるだろう。
もの書きの端くれで、脚本も書けば、あれこれ知ったかぶりに雑学を傾ける何でも屋の放送作家だが、サラクルーもルサンも読んだことないなんて、不勉強きわまりないのを恥じる。
原文が読めなくても、翻訳ものはいくつも出版されている。
これからの課題だ! 
だが残念ながら、サラクルーやルサンの全作品が翻訳されているとは限らないし、原書で読むなら、フランスに行って古書を扱う書店を巡るか、あるいは、SACD(フランス・パリにあるドラマ作家協会)の図書館に日参してとことん調べるか?
(SACDとは日本で言う放送作家協会と脚本家連盟とシナリオ作家協会が合体したような団体で、創立は1777年。劇作家ボーマルシェの呼びかけで組織された歴史上最初のドラマ作家の協会・・・・・・2008年の秋に、日本放送作家協会の視察団に加わって訪ねたことがあります。とにかく、フランスの劇作家に関することを調べたければここが頼り!)

ちなみに、アンドレ・ルサンはSACDのプレジデントであったし、アカデミー・フランセーズの会員、アルマン・サラクルーはカンヌ映画祭の審査員長をつとめたこともあり、レジオン・ドヌール勲章受章者でもある。
いずれも、もはや故人となられたが、フランスのドラマ作家として大変高名な方々なのだ。
サラクルーやルサンの台詞を引用して、ウイットに富んだ台詞のひとつやふたつんもつぶやけば、私も“おんな石田純一・・・恋愛文化人”になれるだろう。
今からでも、勉強に励むべし!

 加えて、アーノルド・A・ラザラス博士は、認知症の行動療法のパイオニアで、『行動療法の展開』と題された翻訳書がある。
リハビリのお勉強などしないと出会わない学者だが、バラエティ番組を見て、ツイッターしたところから、巡り巡って知り得た名前だ。
高齢の両親を抱え、また自らも、だんだん“高齢者”に手が届きつつある私にとって、博士が提唱した行動療法なるものにも、関心がある。

ツイッターのおかげで、またまたちょとだけ“にわか物知りさん”になれた。
ともすれば3歩前進するとすぐ忘れて、別のことに興味が湧く浅学非才を地でいく私だが、せめてこうしてブログに残し、永久に己の恥をネットに乗っけて晒し続けることが、かの名言を座右の銘とする私に相応しい新たなる戒めとなっている。