あなたはどういうときに自分の年齢を感じますか?

私が最初に「あっ!」と思ったのは高校野球のお兄さんたちが年下になったときでした。それからお相撲さん…、そこからはあれよ、あれよという間にどんどん歳月は流れて最近は教え子の親御さんがもはや同世代ということになって、街や電車の中で赤ちゃんを連れている若いママを見て、「大丈夫?子どもが子ども連れてて…」とすごく心配になる始末です。

そうなのに、いえつまりもう十分歳を取ったというのに、自分にはまだまだ子どもっぽいところもあちこち残っていることを自覚していますから、相手がたとえ小学生でもきちんとしたことを言ってくれれば「生意気だ」なんて思わずに素直に頷きますし、むしろ「近頃の若い子は…」と悲観しなくていいことを喜びます。

『ハラがコレなんで』 
1983年生まれの石井裕也監督の作品を見てきました。
前作『川の底からこんにちは』が良かったと聞いてずっと気になっていましたから期待して試写に行ったら、近年稀にみる痛快な作品でした。

ヒロイン光子(仲里依紗)は「袖すりあうも多少の縁」でアメリカまでついて行ったのに結局別れてしまった黒人の子どもを身ごもっています。臨月間近なのにほぼ文無しで宿無しという大ピンチに見舞われているにもかかわらず、自分のことより他人のことを考えてしまう「今どき」とはかけ離れた、どこまでも前向きな女子です。

会社の経営が思わしくないらしい両親にも泣き言はもちろん、アメリカから帰国していることすら言わずに、小学生の頃夜逃げ同然で一家で一時期転がり込んでいたハーモニカ長屋(昭和30年代のような)の年老いて寝たきりになってしまった大家さんの長屋に転がり込みます。
そこは親に棄てられた自分を拾って育ててくれた叔父さんと小汚い食堂を営んでいる幼馴染で昔、彼女に愛を告白した青年・陽一(中村蒼)を始めとする、時代に取り残された世才のない不器用な人びとのいわば吹き溜まりのような場所です。

しかし光子はどんなときも自分のことは後回しです。
見ず知らずの他人の不幸に涙し、混乱や困難に直面すると「OK!」と周囲と自らを励まし、「いったん昼寝しよう」とごろりと横になります。
そして「そのうち風向きが変わったらドーンと行くよ!」と、実際徹底的に奮闘するのです。

光子の行動規範は「粋」か「粋じゃないか」です。
幼い時、この長屋の大家さんから受け継いだ価値観なのです。
自分を後回しでひとのことを優先している行ないを見たとき、「粋だねぇ」と感じ入ると同時に、自分も率先してそれを実践しているというわけです。

それはいまの日本に足りない、一番必要な何かだと思いました。

石井監督はこの一見時代遅れの人びとを実に活き活きとポップに描いていて、昭和という時代を知らない世代には「粋」が最先端の格好良さだと見えるのではないかと思わせるほどです。
主演の仲里衣紗が身重で身体の動きは当然緩慢なのにテンポのいいセリフと絶妙の間合いでどんより落ち込みがちな面々を見事にどんどん引っ張っていきます。

東日本大震災後、事実婚から入籍するカップルが増えた現象を見て家族の大切さを実感しているひとが増えているのでは…ということを言っているひとがいましたが、家族(血縁の有る無しに関わらない)を核としたコミュニティの再構築は今後の日本社会の将来像を考える上でとても重要な要素となるはずです。

この『ハラがコレなんで』は日本がいま直面するあらゆる問題に鮮やかで景気のいい平手打ちを与えてくれるように感じました。

まだ30歳にもならない若い石井監督に「まだまだ日本も棄てたもんじゃないですぜ」と元気をもらって「若ぇ奴ら、なかなかやるじゃないか!」とすごくしあわせな気分で試写室をあとにしました。
皆さんも是非!